握る剣~ツルギ~

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「「「っ!!?」」」 その場にいた全員が言葉を失った。 世界最悪の大魔王の正体は、ただの村人だった。 「なんて…こった」 ゼクスが脱力する。 「魔王を倒せば世界最強を証明できるって信じてたのによぉ……。ってことは噂はマジだったのか…?」 ゼクスがレイドに目を向ける。無感情な、ただただ純粋な疑問。 「噂?」 それに関してはレイドも知らなかったらしく、逆に聞き返す。 「血染の魔王がとっくに自害してるって噂だ。てめぇの胸に剣をぶっ刺してなぁ!」 再び人々が絶句した。 世界最凶の犯罪者がとうの昔に死んでいるかもしれない。 これほどの衝撃もまたとないだろう。 「あーあー、しょうがねぇな。地道に最強目指すしかねぇか。いいぜ、俺が血染の魔王になってやる……」 ゼクスが大剣を掲げ、宣誓をするかのように叫んだ。 「手始めにこの街を血で染めてなぁっ!!」 ゼクスが剣を振り、整備された道が砕ける。 「魔王もバカだぜ! 暴走したって剣の要望に応えりゃ力を貰えたのによぉ!!」 叫びながらゼクスが剣を振る度に地面が、家屋が、人々が吹き飛ぶ。 剣~ツルギ~の力からは誰も逃れられない。 「仕方……なかった。剣の要望が……魔王の願いに相反していたから…」 「知ってるのか! 剣の願いを、魔王の願いを!!」 下を向いたままレイドは反応をしめさない。 無視された。 それがゼクスの怒りを増大させる。 「喋らねぇならそのまま死にな!」 レイドに振り下ろされた剣。 鉄パイプはもう役にたたない。 イリアの叫び声もとどかない。 「魔王は愛する人を護るための力を望み、剣は魔王の愛する人の命を望んだ」 チラリとイリアを見る。 涙で顔をクシャクシャにしているのがなんだか堪らなくおかしくて… (可愛い顔が台無しだぞ?) 恥ずかしくて口には出せないことを思った。
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