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空はすでに明るくなり、小鳥達が歌い出していた。
『皆は起きているだろうか・・・』
椿の手を引きながら小十郎はつぶやいた。横を見れば、さっき拾ってきた猫が自分に手を引かれながらついてきている。
はたから見れば親子を想像させるような光景である。
『なぁ椿。本当にいいのか??前の主が心配してんじゃないのか??』
そう問うが椿は何も答えない。
椿は小十郎から見てもかなりの美しさがある。海を連想させるかのような蒼い瞳、雪のごとく白い肌、そして風になびくたびにいい香りがする美しい漆黒の髪。
男ならどんな手を使ってでも自分の側から逃げ出さないようにするだろう。もし逃げ出しても必ず捕まえようとするだろう。だが捕まえようとする人すら現れない。
椿はこんなにいい着物を着せてもらって、何一つ不自由はなかっただろう。なのに何故帰ろうとしないのか・・・・・帰りたくないのか??
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