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「壬生…浪士組…」
藤崎は難しい顔をしながら静かに呟いた。
「本当に宜しいのですか…?何処の誰とも知れぬ私を…」
彼は不安げに尋ねる。
「訳ありか?…構わない。俺達を裏切らないと誓うのなら」
「誓います。では、謹んでお請け致します」
藤崎は真っ直ぐに土方の目を見た後、恭しく一礼した。
――中々の上物だ…俺の目に狂いは無かったか…
上の者に対する礼儀を知っている。これは組織の中でやっていくには重要な事だ。
「では屯所に案内する。詳しい話は後だ……先ずは血糊を流そう」
「はい」
その日、土方が血塗れの少年を連れ帰ったと皆大騒ぎだった。
そんな中、一人の隊士が土方に話し掛ける。
「入隊希望者ですか?土方さんが連れて来るなんて珍しいですね…それも全身血塗れの」
「俺達は数が欲しい、質が良ければ尚いい」
土方は含み笑いで是に答える。
「成る程ねぇ…後で手合わせしてもいいですか?」
「ああ、だが潰すなよ」
「分かってますよ」
彼は人好きのする笑みを浮かべている。土方の物言いから、彼がかなりの剣の使い手なのが分かる。
「すみません、何方か着替えを貸して頂けませんか?荷物も全部血糊が付いてしまっていて…」
血を流しに行った筈の藤崎が戻ってきていた。
顔も何もかも分からない程真っ赤に染まっていた。
彼の手には、同じく血で真っ赤になった荷物が握られている。
「あぁ、私のもので宜しければどうぞ」
土方と話していた少年が、藤崎に笑顔で話し掛けた。
「ありがとうございます…えっと…」
「沖田です、宜しく。その代わり、後で私と手合わせして下さいね」
「…はい、構いませんが…」
藤崎は不思議そうな顔をしながらも、着替えを受け取ってさっさと行ってしまった。
沖田を知る隊士達は恐怖に引きつった顔でその様子を見守っていた……。
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