僕が君に、君が僕に渡せたモノ

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しばらくして、僕の母が退院することになりました。 そのことを彼女に話したとき彼女は一瞬ひどく落ち込んだ顔になり、僕の手を震える手で掴みこう言ったのです。 「一人は寂しいよ…。お願い、一人にしないで…」 それは彼女が初めて見せた「弱さ」であり、心の底からの本当の言葉でした。 白い彼女の頬には滴が流れていました。 僕はしばらく何も言えずに立っているだけでしたが、不安そうな彼女の瞳を見たとき僕はある決心をしました。 「わかった。これからも暇なときはここに来ることにするよ」 そう言った瞬間、彼女が抱き着いてきて僕はそれ以上何も言えなくなりました。 「また来て下さいね」 涙の跡の残る顔で彼女は微笑みます。 あれからしばらく、彼女は僕に抱き着いたまま泣いていました。 今まで溜め込んできた孤独を吐き出すように、大声で。 僕はやっと離れた彼女に微笑み返すと、静かに彼女を抱きしめました。 「えっ?あ、あの…」 彼女は顔を赤らめて少し抵抗していましたが、僕は構わずに、強く彼女を抱きしめていました。 しばらく彼女は僕の腕の中でもがいていましたが、諦めたように彼女ももう一度僕に抱き着いてきました。 そして―――。 「好きです。あなたのことが好きです」 「―――僕も好きだよ」 そうしてしばらくの間僕達は互いを抱きしめ合っていました。
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