第一夜

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    この世に未練などない。     いやむしろあの世に用事がある、   と言った方が正しいか。     ポケットから取り出した白い小さなカプセルは違法とされ一般には出回っていない。 いわゆる自殺専用のカプセルだ。   いろいろある中でも一番手軽に 苦しまずに死ねる。       死の苦しみを味わえるような 希少品は我々庶民では到底 手に入れることは出来ない。       その白い小さなカプセルを口にした。     そうだ…飲み込む前に奥歯でかみ砕いてみるとするか…       カリッ         ウィルス性胃腸炎用の薬よりは若干にがいだけ。   決して苦しみを味わえるようなものではなかった。       一気に飲み込み、 フゥーっと溜め息を一つつく。     するとさすがに自殺用だ… 睡眠促進剤とはわけが違う。   みるみる意識が薄れていく。     そして、 死ぬという決意がそうさせるのだろうか。   眠る時のようにただ暗闇に吸い込まれるわけではなかった。       太古の人々が死の間際、 走馬灯のように自分の過去が脳裏に映し出されることを自分は古い文献で読み何時しかそれに憧れていた。       そしてその夢が今まさに叶おうとしていた。      永遠に映し出す夢がこんなにも恐ろしいものとも知らずに…       すでに二つの天の川は自分の目には映っていなかった。    
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