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僕の脳裏に映し出された走馬灯の絵は生まれた頃のことから始まった。
僕が生まれたのはK990年。
銀河系がアンドロメダに吸収され始めてから1万2千年が経とうとしていた頃であり、年号がKからLに切り替わるまであと10年というミレニアムな雰囲気に湧いていた頃でもあった。
しかし僕がものごころついた頃、母はまだ生命維持装置の中で眠っていた。
この時代、
夫婦20組に1組程度の割合でしか子供は産まれない。
出産すること自体命を削る様な行為であり、
誰でも出産後はその装置に入る必要があった。
母も僕を産んで三年以上はその装置の中にいた。
ただ生命維持装置のおかげでこのころの人の平均寿命は500歳を超えていたのも事実である。
難しいことは解らないが、
人はある一定期間装置の中で仮死状態を経ることが癌や心臓病の予防になり、
更に老化そのものも抑制できるとのことだ。
これも全て「永遠」というものに長い間憧れ研究してきた人類の成果だろう。
しかし得たものがあれば当然失うものもある。
一つは感情だ。
現在の人々が無感情なのは
3歳くらいまでの大事な期間、
母との触れ合いがないことも原因の一つだろう。
僕もそんな無感情な人々の中の一人にすぎなかった。
僕が「死」というものに特別な思いをいだき始め、
それをキッカケに感情を取り戻したのはもう少し先の話しだ。
もっとも悪夢のような人生は、その感情を取り戻したことで始まるのだが…
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