第二夜

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  幼少時代の僕は何不自由なく育った。   そのエリアの中では久しぶりの子供だったからか周りの人達からは寧ろ必要以上に過保護に育てられた。       目を覚ました母は、 僕を産んだ実感がないせいだろうか…   母性本能ってものが欠如しているようだった。   しかし肝心の僕がそれを求めようとはしなかった為、それによって何か問題が起こるという訳ではなかった。     この時代の子供は母親に抱かれない。       しかし装置には抱かれる。     生命維持装置はときに睡眠学習用にも使用される。     満1歳になると言葉を覚える為に 3ヵ月間眠り、     3歳になると いわゆる学校で習うような知識を半年間の睡眠で得る。     因みに学校というものはない。   ただ、 かつてあったということは睡眠学習の中の歴史分野で教わり知っている。       アンドロメダがまだ一等星ほどだった時代、   子供たちは知識や道徳を学ぶ為に毎日学校という施設に集まっていたこと。     地球には大きなエリアごとに線が引かれ、その線を境に文化や 言語、道徳、価値観が違った ということ。   またその違いのせいでしばしば争いも起こったこと。       化石燃料を200年程で使い切ってしまったこと。     人の平均寿命が100歳程度だったということ。     これらの歴史は時折遺跡となって掘り出された学校によって得られたということも含めて、   全て装置の中で学ぶ。       なぜ学校がなくなったかはその遺跡からは探れないが、     その時代から現代に至るまでに   異常なまでの海面上昇を二度、 氷河期を一度、 そして地軸の変動など(因みに現在の北極星はかつてのベガである) も経ている事実と     今現在の子供の数と合理的な 仕組みを踏まえれば、   学校がなくなるのはきわめて 必然だろう。     なによりも人が人を教育すること自体、   今では到底想像がつかない。  
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