130人が本棚に入れています
本棚に追加
「そう。公安史上最大の事件だ。すでに5年が経過しているにも関わらず、未だに犯人の消息は掴めていない。」
アルフレッドは今までの捜査を思い返すように話す。
そして俺も事件当時の事を思い出していた。
「そう怖い顔をするな。少し長くなるかもしれん。お前に立たれていたらこちらも話しにくい。座って聞け。」
言うとアルフレッドは、俺の後ろにある来客用のソファーを指差した。
「あぁ。」
考えている事が顔に出ていたのを恥じつつも、俺は素直にソファーへと足を進める。
来客用と言うだけあって如何にも高級そうな代物である。
それに腰掛けた途端、何とも言えない弾力が身を包み、思わず「お休みっ!」と言って眠ってしまいたくなったのは俺の心の中の秘密である。
「コーヒーしかないが我慢しろ。」
一人バカな事を考えている内にわざわざコーヒーを淹れてくれたらしい。
「ありがとう…ございます。」
予想していなかった行動に戸惑いつつもお礼は忘れない。
一口啜るとコーヒーならではの香りと苦味が口の中に広がる。
う~ん。ブラックか。まぁあのオッサンが砂糖を入れて飲むなんて想像つかないしな。
再びくだらない事を考える俺。
どうやらお陰でいつもの調子に戻ったようだ。
「では本題に戻るが、本局のとある次元航行艦に同行していた執務官が目標と接触、交戦したらしい。」
いつもの口調と比べてなにか歯切れが悪く感じた。
「らしいってなんスか。いつもなら断言するのに、何か違うトコでもあったんスか?」
そう、いつもなら断言している。更には戦闘結果まで教えてくれていた。ほとんどは死んでいたが、中には生還した者もいた。
まぁ植物人間状態でマトモなヤツなんていなかったが。
つまりはそう言うことなのだ。
目標に接触、交戦した者は皆例外なく死亡あるいはその一歩手前までやられてしまうのだ。
だから断言できる。
だが今回は断言していない。
それはつまり…。
「まさか五体満足で生還したのか?」
相手が死体もしくはそれに近い物ならば、適当な理由をでっち上げ面会と言う名の調査をする事が出来る。
しかし相手が完全に生きている状態では、適当な理由で調査の機会を作り上げてもそんなヤツは知らないと拒否されてしまうかもしれないからだ。
公安は管理局内部を捜査するため下手に素性を明かせない。
つまり無闇に公安権限を使う事が出来ないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!