理解者

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   その手首を見て、私は驚いた。幾重もの赤い切り傷があり、それは私のものど同じだったのだ。  そしてその手のひらには、薬。私の愛用する薬だ。  期待に私は微笑んだ。少し歪んで、変な笑みだったかもしれない。  私と同じ。私と同じ立場の人。  言いしれようのない不安・悩み・心の病を解消しようと、手首を薄く切り、薬を体内に流し込む、という行動。  今まで理解されなかった。理解されることのなかった私を理解してくれる人が、今ここにいるのだと。  期待して、顔を上げた。誰なんだろう。挨拶をしなければ。  はじめまして。  どなたですか?  私ですか?  私を理解してくれる人ですか?  見えたのは、私だった。私だった。  そこには鏡に映った、私しかいなかった。  泣きそうに笑って、悟る。  この世には神も仏も何もいないのだ。  理解者は、いない。  私には、私しかいない。  私は、私しか理解できない。  そう理解した。  
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