ストックホルムシンドローム

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  少女は恨みと恐怖がこもった目で俺を見た。 それは、決してかつての俺の娘が俺に投げかけることはないであろう視線だった。 いや、もしかしたら、娘が思春期になって反抗期になって、お父さん嫌い、などと俺を罵りながら、そんな視線で見るかもしれない。 それでもいい、素敵だ。 こんなバカやってないで、そういう普通がしたかった。 涙こそ出なかったが、突然この少女とその家族が哀れに思えた。 上着のポケットに手を突っ込むと、銃でも出すと思ったのか、少女が怯えに震えた。 違う、もしもの時君を殺すのは俺じゃない、俺は低く威圧的な声をかわれたただの連絡係だ。 ポケットの中から水玉模様の包み紙に保護されたあめ玉を取り出した。 オレンジのあめ玉を包み紙から解放し、少女の口を覆うタオルの隙間からあめ玉を入れる。 何故か嫌がった少女に、理解した俺は弁解する。 「毒じゃない。君を今殺す理由がないからだ。安心しろ、ただのあめだ」 言うと彼女は大人しくあめ玉を口に含んだ。 何気なしに、俺も同じ味のあめ玉を口内に入れる。 甘い。 拉致した少女も俺と同じ味を感じていると思うと不思議な感慨がわいた。 その少女が俺を睨んでいるとなると、また違う。 その少女に俺のかつての娘を重ねている自分に気づくと、どうしようもなく悲しく、後悔とか自己嫌悪やそういった後ろ向きな気持ちが俺を支配した。 なるほど、良いタイミングだ。 遠くから、パトカーのサイレンが響いてきた。  
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