笑い泣き

2/2
前へ
/32ページ
次へ
  そして彼は笑った。 笑い声を録音したカセットテープを延々繰り返し再生しているラジオカセットのようだった。 私は何の冗句も言ってはいないのに、大声で笑って笑って笑うものだから、いずれ顎が外れやしないかと危惧したが、そう思ったとたんに彼は笑いをぴたりと止めて無表情になった。 どうやら、ラジオカセットの電池が切れたようだ。 嘘だ。 彼の凛々しく低い声が、私の鼓膜を震わせた。 嘘ではない。 と、私は声に出して伝えられなかった。 言えば私は情けない表情をさらけ出すのは必然だったからだ。 私が上手な嘘をつけるならば、今ごろ私は笑っている。 彼はまた笑いはじめた。 顔を隠すように手で覆って、乾いた笑い声を漏らしていた。 ふ、ふ、ふ。 嗚咽のような笑いは、やがて本当のそれに変わっていた。 私は彼の頬を伝う涙を認める。 嘘だろ。 私が好きな彼の声は震えて歪んでいた。 嘘ではない。 と、やはり私は伝えられなかった。 私が、私の今の状況を、状態を真実だと受け入れていないのに、どうして嘘ではないとえらそうに言えようか。 嫌だ、と彼は言ったきり、ベッドに横たわる私の胸にうずまり涙と鼻水を流し続けた。 私だって死ぬのは嫌だ。と、やはり私は伝えられなかった。  
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加