16回目の春

9/87
前へ
/100ページ
次へ
「びぃえぇぇぇっ」 「よしよし、泣くなっなっ!泣くなよ~」 「びっ、びぃえぇぇぇっん」 母さんは両手を目に当てて泣いている。 他人が見ると子供が泣いている様にしか見えない外見だが… 周囲の視線が痛い… 「泣くなよ~なっ!何でもしてやるから~泣くなよ~」 「びぃえぇぇ…えっ?な…何でも?」 母さんは目元に滴を溜めながら上目使いで聞いてくる。 「うっ……」 (しまった!母さんに何でもなんて言ったら…) 「う、嘘な…の?…ぐすん」 母さんはまた泣きそうだ。 (ここは腹をくくるしかない) 僕は一呼吸して冷静さを戻す。 「な、何でもしてやるから。泣くな。なっ?悪かったよ」 後戻りは出来ない一言を口に出した。 「何でも?約束だよ…絶対だよ…忘れたら…ママ家出してやる~」 「わかったわかった悪かったよ。何でもするから速くスーパーに行こうよ…」 「うんっ!」 母さんは笑顔で元気よく答えた。 さっきの事が嘘の様に… 『一番線に電車がまいります。白い白線より内側に…』 というアナウンスが流れて僕達が乗る電車がやってくる。 「志季ちゃんこれに乗るよ~」 「…おう」 僕と母さんは電車に乗り込んだ。 車内は夫婦や家族連れが多く、みな新オープンのスーパーに行くのであろう。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

329人が本棚に入れています
本棚に追加