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たとえ私が常日頃、記憶に捕われず生きていたって、恐ろしいほど確実に、過去へ引きずり込む。
匂い。
匂いの記憶が私にまとわりつく。
地下鉄で、街で、通り過ぎる無数の匂いの中に反応するヒトツの匂い。
振り返っても知った顔はいない。
振り返って過去をたどるけれど、そこにあるのは私の好きだった匂いだけ。
私は人の匂いと煙を覚えるのが異常に上手。
匂い。
私の鍵。
匂いと記憶と過去の私。
煙の甘さと夜のけだるさと遠い空。
私を守る……空間。
思い出してしまえばしばらくは囚われるし、忘れようとすれば刻まれる。
この悪循環をどうしていいのかわからない。
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