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春が在る? 一年中春なのか? ならばどの様な生き物がそこには居るのだ。どんな光景が、そこには広がっているのだと、芭蕉は疑念を忘れ妄想の世界へ入っていった。
数えで四十五を越えている芭蕉だが、好奇心と行動力は勿論、想像力と筋力も並の中年の比ではない。
旅に対する精神と肉体は、申し子の如く持て余しているのだ。
五つ程若い弟子、河合曾良(かあいそら)は、明らかに女将の話に聞き入っている芭蕉を見て、呆れながらもこの師匠を自慢に思っていた。
草鞋履き手甲付け茶人帽被る師匠、足袋を履き網代笠被る弟子。
好色の芭蕉にしては珍しく、上々の顔立ちをする女将を口説かずに旅館を出て行った。
時刻は辰の上刻(現代の午前八時頃)。天気は狐の嫁も真っ青になる程の快晴である。
旅日和、と言っても過言ではない程恵まれている。
芭蕉と曾良は粉雪混じりの砂利を踏み締めて、春が在ると言われている地方へと向かい出した。
凡そ四年振りの『春』と出会えるのだ。芭蕉は全身を纏う鳥肌を、治められそうになかった。
血沸き肉躍り、高熱を帯びた心臓は毒に侵されたかの如く飛び跳ねる。
いざ、東へ。
芭蕉は眼に映った者全員に声を掛け、正確な場所を求めていくのであった。
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