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余所者に
塵埃残され ほととぎす
――九尾の狐の動きが、止まった。
有り得ない。何と言う事だ。嘘であろう? と救いの手を乞う様な、無様な表情を芭蕉へ向ける。
馬鹿な手前に潰された塵程の【春】を、俺はほととぎすの声で感じている。
それは、九尾の狐を根元から否定する様な、肉体を粉砕されるよりも苦痛な一句だった。
九尾の狐は耳を疑う。自分のしていることが蛇足だって? 我が【春】を壊しているだって? 九尾の狐は、琴の一寸先で止まった日本刀を、何か匂わせながら下げた。
芭蕉は戸惑う妖怪を見据え、全身全霊の嘲笑を浮かべる。
九尾の狐は、その憎たらしき表情に魂を暴発させた。
「手前! 何を言うか! 心の奥底から打ち壊して不如帰(ほととぎす)の餌にしてくれるわ!」
水が、高らかに上昇していった。川が、滝が、全ての酒が天高く舞い上がり、――そして雨となり、落ちてきた。
春の曙の美麗を壊すそれは――夕立、の様だった。
稲妻の
夕立隠へて虫は死む
終わり落ちへて
雲晴れん事を
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