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その音が世界の端まで透き通らんとした時、周り漂う朝靄は急速に凝結していった。
凝結、という表現は些か相応しく感じないが、この光景にはその言葉が最適だろう。
砂の様な雨は、泥の様な雫へと変わっていく。
――時雨、の様だった。
夕立の
いつ晴れやらぬ雲間より
同じ空とも
見えぬ日かな
地で踊る雨は次第に強くなり、九尾の狐へ音を立ててぶつかっていく。
しかし、九尾の狐は案の定、苦痛を表に出さない。
優美で儚くも思える炎でさえ、着物から腕が生えたかと見間違える程に、大きくなりながら揺れている。
火力は弱まっていないどころか、今も尚成長し続けていた。
雫へ変わった雨は、それに対抗する様に更に強さを増していく。
雑な音を大地で鳴らし、妖怪の肉体へ全身全霊で殴りかかっていく。
雨音は大木が身震いする程大きくなっていった。蚊の鳴く声では、一寸先までも届きはしない。
春の曙の美を壊すそれは――夕立、の様だった。
稲妻の
光を見せてしばしまた
照る日は曇る
夕立の空
その歌に促されるように、近辺の大木へ凄まじい雷撃が落ちた。
視界が一瞬、釈迦から怒号を浴びせられたかの如く白くなり、その後に餓鬼の絶叫の様な雷鳴が轟く。
轟音、爆音を全身で感じながら、九尾の狐はここで初めて腕を動かした。
右手の体毛は雨がしがみ付いた所為で、更に艶やかさとしなやかさが目立っている。
そっと左腰へ添える姿は、剣豪を髣髴させた。
雨に襲われながらも微動だにしない妖怪の右手に、雫が集まっていく。
するとそれが合図のように、地表に幾つか、空中にも数個、雨はそれぞれの点へ蜿蜒と吸い込まれていった。
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