第二章 ~天狗~

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「伊賀国?」  芭蕉は旅館の女将の言葉を、おうむ返しで応えた。女将の言うことでは、ここは伊賀国の北西部らしい。  芭蕉と曾良は顔を合わせる。自分達はあれからどうなったのだ? 大垣を東へ歩いていき……それなら、基角の父と歩んだ出口までの道は南へ向かっていたということか。  しかしそれほど歩を進めてないぞ? この旅館だって、基角の父と別れて然程歩いておらん。随分遠くまで来たものだ。  女将は、ああそうだ、と何か思い出したかの様に言う。 「あんた達、旅のお方だろう? じゃあさ、こういう噂知っているかい」  女将は何だか嬉しそうな顔をする。その様な類の話が好きなのだろう。 「何だかね、【夏】が途切れない地域があるそうなんだよ」  芭蕉は吹き出した。曾良も間抜けな声を出す。 「ま、まさかそんな馬鹿な。この冬しかない土地に……」  芭蕉が言う。  しかし、女将は「はい? 確かに今は十月なのに冬という可笑しな季節だけど。春だってあるじゃないか」と苦笑気味に返した。  芭蕉がそれに何か更に返そうとする。しかし曾良が芭蕉の肩を突いた。 「あの、芭蕉さん。春はもう戻ったのではないですか? 恐らく、町人は記憶が改竄されたのだと推測します」  それを聞き、芭蕉は十数秒考え込んだが……成る程、と首を傾ける。  悩んでいても仕方ないと気を取り直し、女将に【夏】が途切れないという地域について、尋ねてみた。
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