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驟雨集まり、見えたのは、ぼんやりと霞んでいる物体。
しかし、それは豪速に形作られていき、九尾の狐の手には細長い棒が。地面には丸い板が。空中には四角く平べったい鉄が。
――日本刀、太鼓、琴、であった。
嵐が叩きつける鼓は壮絶な音を生み、波動で地割れを起こさんとばかりに地を震わせた。
しかし九尾の狐は、耳を劈くその音を愉しむように、ゆらりと日本刀を踊らせる。
――そして【妖怪】は、雨滴る顔全体を、究極に引きつらせ、傲慢に歪ませ、くしゃくしゃに笑わせながら。
雨で作られた鉄の琴を、鋭くしなやかにぶった斬った。
響く、上品な音。
太鼓や雨音をすり抜け、木々の心を無理矢理落ち着かせる様な、品行方正なる音が奏でられた。
もう一振り、更にもう一振り。
浮遊する点々とした琴を、妖怪は闇に映えるような日本刀で斬り弾いていく。
――それはやがて、どんな日本人でも、見れば豹変し怒り叫ぶ様な奏法になっていった。
ぐんぐんと速さを増していく妖怪は、荒れ狂いながら琴を壊していった。
上品な音は、鬼の如き形相となり、木々の精神を悉く粉砕していく。
地獄に住むべきその琴の音は、空気の鼓膜を猟銃で撃ち抜く様に響き渡った。
【妖怪】は止まらない。地から響く鼓声を背負い、自らは雲を貪り荒らす琴を弾く。
雨から曲を頂き、雨で雨の命を壊す。
九尾の狐は、五百年間舞い狂い続けた。
昔々の、【事】であった。
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