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え……
螢の言葉を遮った声に、全員が虚を突かれ注目する
声の主は驚くなかれ、意識を失っていたはずの繭海
脇腹を抱え、痛みで顔をしかめながら立ち上がったのだ
「マユミ、くん?」
螢は茫然として、戸惑いを見せる
繭海は重傷を負っているとは思えない威圧感を放ち、螢の腕を掴んでいた
「ダメだよ……ホタル、ちゃ… いけ、ない……取り…返…し、つか… なく、なるっ」
切れ切れに発する声は擦れ、首を横に振りながら目で訴えてくる繭海
パオルも周囲も茫然と見つめている
(バカな……あの傷で立ち上がるなんて。ただのガキのくせに、厄介事を増やしてくれる)
パオルは爪を噛み、苦々しく眉をしかめながら舌打ちを漏らして、一歩踏み出し掛けた
……その時だ
ゾクッ
パオルは背筋が凍るような感覚に、顔を引きつらせながら玉座を振り返った
「マイ・マスター?!」
同時に、部屋のガラスの一角が上にスライドしていく
ビュウウゥゥ……
流れ込んでくる風の冷たさに顔をしかめていると、声が聞こえてきた
“あの子供は目障りだ。花嫁に影響を与え過ぎる”
その声は、まるで音として耳に届くのではなく、直接頭に響いてくる不思議な感覚
それでいて、腹の内部まで響きそうに低い……そんな声
“始末する…”
「マスター、しかし… 」
パオルが何かを言い掛けていたが、聞き入れる様子はない
繭海を支える形で並ぶ螢も、困惑するように視線を揺らす
(? 何、この声?聞こえ方が変)
どんどん強くなる風は、外に吹き出していて勢いは強まるばかり
開いたガラスの壁に一番近かった二人の体が傾き掛ける
しばらくパオルは声の主に対して交渉していたが、やがて諦めた様に頷いた
そして、おもむろにこっちを見てニッコリ微笑んだ
「君、名前は……ホタル?」
確認されて、螢も反射的に肯定して頷く
「そうだけど……香角 螢」
警戒しながらも素直に自己紹介し、ギュッと繭海の手を握る
パオルは「そう」と呟きながら、より一層笑顔で口を開く
「じゃあ、ホタル様…――今すぐソイツから離れるんだ」
ゾワッ…
「ッ…」
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