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パオルの豹変した声音と隠そうともしない殺気に今まで以上の悪寒が走る
ゆっくりと一歩ずつ近付いてくる威圧は先程とは比べものにならない
恐怖に泣きたくなったが、決して繭海からは離れようとはしなかった
その様子をパオルは「やれやれ」溜め息を吐く
「案外聞き分けないンだね。しょうがないな……」
首を振りながら呟くと、二人の前で足を止めた
目を細め、揺らぐ瞳で見上げる螢へ笑止する
「手間、掛けさせないでよ」
ガッ
次の間には、螢の腕は掴まれていた
「きゃ… いやっ離して!!」
小さく叫んで振り払おうとしたが、アッサリ流されて繭海との手が離れてしまう
「ホタルちゃッ…ッ クッ…う……ツ」
動かぬ体にもどかしさを感じながら痛みで蹲り、届かぬ螢へ手を伸ばす
ビュウウウゥッッ
外へ流れていた風は、突然物凄い勢いを増す
立っていられぬ程に
「くっ」
螢はパオルに支えられているお陰で辛うじて免れているが、まともに的になっている繭海は四つんばになって強風に耐え忍んでいる
激痛と消耗でその後、とうとう風圧に負けて体が宙に流されてしまう
「!」
「マユミくん!!」
「うわああぁっ」
火事場のなんとやらとは良く言ったもの。螢はパオルの手を薙払うと素早く腕の中を擦り抜け、風の逃げ場へ繭海を追って自ら飛込んでいく
(あや?こーりゃまた油断したかな?)
螢へ逃げられても気にした風もない
払われた手を一瞥してから肩を竦め、その背中を見つめた
すると風はウソのように止む
……しかし運悪く、繭海の体は外へ投げ出された所で
「繭海くんッ!!」
ブランと宙吊りになる繭海の体
支えているのは、体が落ちる寸前、咄嗟に左手首を捕えた、螢の両手
しかし、何とか掴んだとは言え、子供の体重を支えるどころか引き上げるなど不可能な事
幼い少女の限界は当に越えているはずだった
一緒に巻き込まれなかったのは、すかさずパオルが螢の腰に手を回して引き連られないよう支えてくれたからだ
しかし繭海までを助ける意思は無いのか、螢を船と外のギリギリの所でとどめている
結局は、繭海の状況は変わらないし、螢の負担も不安定なままである
あくまで螢が落ちないようにしているのみ
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