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「ホタ…ちゃ ……離、して…いっ、しょに…落ち、ちゃう」
か細い繭海の訴えに、螢は必死で首を振り続けた
「やッ!絶対離さない!!」
半ばウンザリしながらパオルは溜め息を吐く
「螢様は頑固だねー。彼もあぁ言ってるコトだし素直に離せば良いのに。
どーせ引き上げられないし、早く楽になれば?」
螢は聞き入れるつもりはない。繭海の腕を掴む手に力を込めた
……ただし、すでに限界を越えていて、掴む手の感覚は痛みを通り越し麻痺し始め、痙攣が始まっている
螢は、自分の状態を自覚して冷や汗を浮かべ、最悪のケースを予感し、叫ぶ
「お願いっ!繭海くんを助けて!!
助けて……何でもする、何でも言うことを聞きます!!…聞くからお願いッ…
じゃないと私も一緒に落ちてやる!!」
とうとう、切り札まで出した交渉
泣きながら何度も懇願する螢の言葉を、繭海も聞いた
小さく舌打ちをし、痛みを堪え叫ぶ
「ホタルちゃん!!離すんだっ 肩が壊れちゃうよ!」
「……ッ」
(ダメだ。このままじゃ本当にホタルちゃんの手が……迷宮人(パオル)は傷を治せるから、ホタルちゃんがケガをしても気にしないし、好きにさせている。
でも死なせないよう些細な干渉をしてるのは死なせない為。殺すことはしない……必要なのはあくまでホタルちゃん自身だから。…――なら… )
繭海はこの状況でアレコレ思考を巡らすと、もう一度大きく息を吸い込んで螢へ向かって叫んだ
「螢ッ」
びくっ
名前を呼ばれて、ソレがいつもの繭海とは異なると直感したのか、黙ってしまう
辛うじて螢を見上げる繭海の表情は、穏やかに眼差しはひどく優しい
しかし、血の気の無い肌と異常な脂汗。青紫色に乾燥した唇は彼の体調を露にしていた
「螢、約束する。僕は必ず君を迎えに来るよ」
「?」
言われている意図が掴めず眉を潜めたが、構わず話が続けられる
「どれ程の時間がかかっても助けに来るよ」
「‥‥‥」
「だから、僕は死なない……それまで信じて待ってて」
そこで知る
繭海の言わんとしてる事を
螢の表情が見る見る変化した
嫌な予感に、思わず繭海の名を口にしかける
「繭… 」
けれど繭海は遮るように加える
「約束してくれるよね?
諦めないで、決して。
……生きる事を。僕との約束が果たされる事を……
だから、それまでの少しの間……―――
――…『さよなら』だ」
「!」
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