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最後の言葉を向けた時の表情。螢の記憶の中で一番大人びた笑顔で
繭海は脇腹に刺さったままのナイフを乱暴に抜き取る
溢れとめどなく流れる赤い体液が、遥か地上へ落ちていく
「マユミくん?!」
信じられない行為に混乱する螢の声を無視して、抜いた勢いにまかせて持っているナイフを振り仰ぎ、自分を掴んでいる螢の手へ斬りつけたのだ
「あぅッ」
咄嗟に受けた痛みに怯んで、思わず手を離してしまった螢に繭海はニィと笑う
……落ちていった
繭海の行動に目を見張るパオルは驚いて、抗う螢を解放した
一同も動揺を示す。そして絶叫する螢
「繭海く…っ…ぃやああぁぁっ!!マユミくんッ、繭海ぃーッ!!」
ドクンッ
直後、一瞬震えた螢の体が発光する
その場全員が驚愕を露にする中、パオルは咄嗟に落ちたはずの繭海の姿を追う
外に身を乗り出し確認すると遥か下で一つの光がゆっくり降りていくのが見えた
唖然として振り返ると螢の体から光は消え、気を失って倒れていた
パオルは気絶する螢を軽々と抱き上げて、玉座を見上げる
「マイ・マスター、これは錬術でしょうか?」
“いずれにしろ花嫁として有力な候補である事は証明された。丁重に扱え。
世話はお前に勅命する。その力、他言無用にせよ”
周囲は螢の力に歓喜した
パオルも一礼し承諾を示した後、螢に視線を落として顔を上げる
「先程の子供、どうします?もしかすれば生きている可能性も考えられますが…殺しておきますか?」
この高さから墜ちて、常識であれば生存している事は不可能に近い
しかしパオルの中で螢の力の矛先が繭海であった事が気に掛かっているようだった
(もしかしたら……)
“放っておけ、所詮は人間の子供だ。ゼロアースに堕ちてしまえば成す術はない”
それでもまだ煮えきらない様子のパオル
“珍しいな、お前が他人に興味を示すなどとは……忘れろ。それよりラヴァースへ急がせるのだ、今宵は宴。もっとも花嫁に近き存在の現れを祝してな”
パオルは螢を見下ろし、頷く
「わざわざ占喚教を使って召喚した甲斐がありましたね。これで後は、王子を待つだけ」
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