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「迷宮には天気は無いの?」
「ゼロアースみたいな雪や雨のように忙しい空は、持たないねー。気紛れに嵐や雷は起きるけどね。イタズラな奴らが面白がって起こすんだ」
「得意の錬術を使って?」
クスクス笑う螢にパオルは優しく微笑む
パオルに対しては、心を開いたらしく、よく笑う様になった
どんなに美しい装飾品やドレスを与えても、部屋を着飾っても、一向に興味を示さない螢に周囲は頭を捻るばかりだった
(他の女達は目の色を変えて喜んでいるのにねー)
螢が唯一興味を示したのは、迷宮の事、錬術の事、他愛もない会話だったのだ。景色などを見たりする事も喜んだ
ある日パオルが質問した事がある
『欲がないの?』
しかし、螢はアッサリ『必要ないでしょ?』と当然の様に答えたので、面食らってしまった
確かに、この土地では必要としない品々ばかりだ。寝る食うには困らないわけだし
とにかく子供の螢なら尚更だった
そんな螢にパオルは正直、好感を持っていた
「日の無いラヴァースには天気は不必要でしょ?それとも懐かしいの?気候が気になる?」
「うーん…雨はあまりスキじゃないかも……あ、でもね、雨が上がった後のカラッと晴れる瞬間はスキ!虹がたまに出たりするとスゴくきれいで繭…」
ニコやかに興奮して話していた螢はふいに口を接ぐんだ
(繭海が一緒に喜んでくれたっけ)
でもパオルは敢えて、繭海の事を思い出した螢に気付かぬ振りで無視して話を進めた
「‥‥‥虹って、何?」
「エッ、知らないの?!」
パオルの意外な返答に螢は我に返る。驚いた様に顔を上げて目を丸くした
「?」
パオルは首を傾げた
「見たことないの?!…ってココには太陽はなかったんだよね?(あぁ、そうか…コレも繭海に教わった事だっけ)‥‥」
虹がどうしてできるのかを思い出して、また気持ちが沈む
『ホタルちゃん!虹はね、お日サマが照らしてできるんだよ!光のクッセツって言うんだって♪スゴいねー、お日さまは♪♪』
あの時は今よりずっと幼くて、何でも知っている繭海が絶対の存在だったのだ
横にいて当たり前の空気の様に自然の存在
繭海の言葉、声が恋しくなった
「何?」
パオルが、黙ってしまった螢を不思議そうに覗き込む
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