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「まーた下を見てるの?毎日よく飽きないねー。一日中、部屋から見下ろす景色は面白い?」
淡いピンク色のインテリを中心に、広すぎる部屋に高過ぎるくらいの天井。何不自由無い生活が送れる家具一式揃い、尽せる限り尽したような贅沢な造りの調度品が並ぶ。
部屋内に設置してある吹き抜けの階段を登れば、外の景色を一望に見渡す事の出来る窓がある
そこまでが、螢に許されている自由だった
声を掛けられても微動だにしない彼女に、「食事だよ♪」と階段を登って呼びに来たのは、ツンツン黒髪に猫目が特徴的で、皮肉な笑みの下から八重歯を覗かせた少年、名は……
「パオル……」
振り向きもせず、螢は少年の名を呼んで窓に手をついた
「景色は変わるわ」
「……ここはそういうトコだからねー」
間延びした口調で肩を竦めて螢の横に並んだ
さほど年齢の変わらぬ彼は、しかし相応の年齢より胆が据わっていた。余裕も態度も子供の持つソレじゃない
「下りよ、食事冷めちゃうからさ」
「………」
螢は答えず、その意を察してパオルは呆れたように小さな溜め息を吐く
「どんなに見続けたってアイツは来ないよ。考えても判ることだろ?ココが何処なのか……そして、アイツが落ちたのはこの地よりも更に高いトコからであった事を思えば、生きちゃいないよ」
「ッ……勝手なこと言わないでよ!!マユミは生きてるっ」
無反応だった螢も、パオルの無責任なこの台詞に、苛立ちを隠せなかった。座っていた窓の縁から立ち上がり、パオルを睨み上げて、すかさず否定する
怒鳴られた張本人と言えば気にした風もなく、飄々とした態度のまま軽く肩を竦めたのみ。
「はいはい」と気のない返事をしてその辺の壁に背をもたれ掛けた
まだ螢は彼の一挙一動を睨むように見つめている。その視線の痛さに、苦笑を漏らす
「ごめん、そんな怖い顔しないでよ。でも仕方ないでしょ?僕等ラヴァーシアンならともかく、アイツは錬術も使えない只の人間なんだから、生きてる可能性を信じる方がよっぽど難しい事だと思わないかい?」
「……っ」
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