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パオルの意見に螢は言葉を飲み込む。顔を紅潮させながら唇を噛み締めて、握る両手の拳は僅かに震えていた
反論の言葉を必死に探す
「君は自分自身の事を考えた方がいい。幹部達は、君を含めた他の候補者達を近々吟味する予定を組んでるよ。
……選ばれたら良いね」
無邪気な笑顔が実際には酷く冷めている事を螢は初めて会った時から気が付いていた
彼は終始笑顔を絶やさない
反面、決して笑っていない事を知っている
(パオルは怖い……
この迷宮の人間は何人も見たし、化け物みたいな姿をしている者もいるけど、それ以上にパオルが一番怖いと思う)
内心ではそういう想いを持ちながら、それでも彼が最も近い話し相手であった。そんな心理を彼は承知してるに違いない、恐らく確信犯だ
「私はまだ子供だもん。花嫁なんかになれないし、ならないわ」
するとパオルは大袈裟に笑う
「甘いなぁ。もちろん君は候補者の中で最年少だけどー、そんなこと関係あると思う?君は特別なんだよ、そして有力だ(自覚はないみたいだけど)。相応の年齢まで育成する方法だってあるわけ♪」
細められた目の奥に映る妖しい光に螢はたじろいだ
「特別?意味が判らないよ……初めて会った時もそんなコト言ってたよね?」
しかしパオルはニカッと歯を見せ、人差し指を目の前で軽く振って「内緒♪」と囁いた
「いつも大事なコトは教えてくれないのね」
はぐらかすのは、いつもの事、だから螢も深くは追求しない
「そーかなぁ」と白々しく呟くと、おもむろに何かを思い付いたらしく向き直ってウィンクしてきた
「ならさ、祈りなよ」
「えぇ?!」
唐突な意見に目を剥く螢。パオルは構わず加えた
「祈っておけば良い、少なくとも君に出来るのはそんな事位だからね。
その友人が生きている事を祈る……それで君の想いが安らぐなら、良いンじゃない?」
螢は僅かに俯く
(それが許される限りの、私にできる事って言いたいのね……)
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