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「そない警戒せんでええよ、話ししに来ただけや」
フードの奴は関西弁の若い男っぽい声で言うと、片手を前でひらひらと振った。
目深に被ったフードと暗くなりつつあった空のせいもあってその表情は伺えない。
「とりあえず、名乗っとくな。ウチは鈴本言うんや、よろしゅうな」
「宮川だ」
男が名乗り俺が偽名で名乗り返すと、鈴本と名乗った男はくつくつと笑うだけだった。
「なにがおかしい?」
「んにゃ、すまんすまん。やっぱ、こっち側に関わった人間だけあって、初対面の人間に本名を名乗るような馬鹿じゃないんと安心しとったんよ。朔真くん」
「…………」
調査済み、と言うことか。
「……で、話しってのは?」
「お、そうやった。じゃ、単刀直入に」
俺が促すとそこでわざとらしく一度咳払いを入れ、
「memに入団して欲しいや」
鈴本はそう言った。
若干の間を取ってから俺は応える。
「……なんの集団だ? 犯罪組織ならお断りする」
「ちゃうちゃう、政府公認のれっきとした善良組織や」
「自分で言ってれば世話ないぞ」
俺があきれた顔でそう言うと、鈴本は少しだけ嘆息した。
「お堅いやっちゃなーまったくもう。memがあんさんを入団させたい理由は三つ、や」
「?」
「一つ、あんさんが強力な『力』を持っといて、尚且つその『力』を一般人に流布していないから。二つ、まだこの地域に担当の能力者がおらへんから。
三つ――――――
三年前の事件がまだ終わってないから。
ウチからは以上や」
Δ
その時までは正直、鈴本の話はまったく信じていなかった。
いや、ほとんど信じてはいなかった。
・・・・・・
そう、その時までは。
そして今は、確実に信じれることは三つだけ。
一つ目は、俺が能力者で、鈴本の言うmemとやらに必要とされていること。
二つ目は、鈴本も能力者であること。
そして三つ目は、三年前の事件がまだ終わっていなかったことだ。
全否定していた話が、半信半疑になったのは鈴本との会話を始めて五分後に、その話を肯定するできごとが起きたからだ。
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