見えない婿

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輪廻転生、という言葉がある。 魂は常に一定数であり、減ることも増えることもない。 例外はただひとつ、魂が疲弊し使い物にならなくなった時のみ増減の現象が起こる。 だがそれもいずれは一定数となり安定するのだ。 「今は、魂は減っているの?」 幼子が問う。 それに青年は軽く頷いた。 「先に大戦をやっているからな。戦は、魂を疲弊させる」 「じゃあどうしてニンゲンは戦争をするの?」 幼子の問いはあくまで純粋だ。 だが、純粋だからこそ真っ直ぐで、時に大人が答えられないような問いをする。 青年はしばらく黙り込んでいたがやがて静かに、口を開いた。 「利益のため、だな。単純に言えば」 「りえき?」 「我々には利益という概念は存在しないが……人間は、自らが有利となる状況を作るのが好きなのだよ」 他人を蹴落としてまでも自分が頂点に上り詰めたいと思う、それが人間だ。 己の利益のためならば他人の人生を犠牲にしたとしても構わない。 己さえ良ければいいのだ。 裕福に暮らし、貨幣を湯水のように使い、価値があるという物に囲まれて暮らす。 それが全員とは言わないが、一部の人間が思っていることも確かだ。 欲とは恐ろしいものだ、と青年は笑みを浮かべる。 首を傾げる幼子に青年は幼子の頭を撫ぜた。 「八咫烏(ヤタガラス)、お話はまた今度だ。伊邪那岐(イザナギ)様が呼んでおられたろう」 「でも、イザナギさまはいつでもいいって」 「ならん。早く行け」 「はぁい」 青年の言葉に幼子は不貞腐れた表情を見せるが、すぐに立ち上がった。 幼子が何か呟くと、全身が光に包まれる。 やがて光が収まるとそこには三本足の、大きな烏(カラス)がいた。 翼を広げて飛び立つ様はいつ見ても感嘆する。 さて、と青年は立ち上がった。 「――あのお方はおられるであろうか」 愛しい、愛しいひとは。 今日こそあの時のように言葉を紡いでくれるだろうか。
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