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目の前の生き物は涼しげな顔で瓶に寄りかかっていた。
「今はまだ俺の近くにいるから襲われないが、そこから五~六歩でも下がってみろ。確実にお前の心臓なんか潰れたトマトだぞ」
「……っく」
俺の額から汗が流れ落ちた。
コイツの言ってることが本当かどうかはわからないが、少なくとも鏡に映る化け物は俺をを直視していたのは間違いない。
ムカデのような口をした一匹からヨダレが垂れた。
試しに後ろに下がると、ムカデが動いた。足をもどすと、ムカデも戻った。
もしかしたら、本当に死ぬかもしれないと思った。
「ど、どうすればいんだよ」
俺は何か助かる術を知ってる風に笑う生き物に、仕方なく聞いた。
するとコイツは、
「簡単なことさ。俺をここから出して、お前と契約すればいい」
「契約だと?」
「そうだ。世の中何をするにも約束、条件、その他諸々と安心と信頼の二つが必要だろ。今なら初契約ってことで、お前の願いを五つまで叶えてやる」
「なんだそりゃ?」
「そんなの決まってるだろ。せっかく自由になれるかもしれないってのに、何のお返しもしないほど図々しくないぞ。それに俺は、気前がいいんだよ」
俺は少し考えた。
「なんでもか?」
「ああ、なんでもいいぞ。金が欲しい、女が欲しい、地位が欲しい、権力が欲しい、アイツを殺したい。俺が叶えられる程度なら何でも叶えてやる。まあ俺は大抵のことなら何でも叶えられるからな」
どうも信じられない。こんなちっこい奴に、そんなことが出来るとはとても思えてこない。
しかし今の状況で俺には考える時間も選択肢もなかった。後ろの化け物どもが、いつ痺れを切らして飛び掛かってくるかわからねえ。
先輩が来れば何とかなりそうだが、残念ながら先輩は一度寝たら中々起きないという悪い癖があり、助けを待っても助けに来る確率は絶望的だ。
自分で何とかしようにも、この化け物どもは俺一人でどうにか出来そうにない。
となると残った手段は、やはりコイツの言う通り契約するしかないということだ。
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