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(うえぇぇ)
ガキの頃、あやまって指を切った時、とっさに血を舐めたことはあるが、意識して血を飲んだのは初めてだ。そろも他人の血を。
味わったことはないが、はっきり言って飲めたもんじゃない。
当然だ。血は飲む物じゃないんだ。
だと言うのに手の中のコイツは、
「ぷはあ~、うめえ~。八百年ぶりに飲む血は格別だぜ」
まるで仕事から帰って晩酌を堪能する中年サラリーマンのようなセリフを吐いてやがる。
まあ、肉体年齢も精神年齢も上だから当然と言えば当然なんだが。
「よっしゃ。契約さえしちまえばこんなジメジメした所に用はねえ。とっとと出ちまおうぜ」
「出るったってどうやって出るんだよ。通路を見ろよ」
視線を合わさず、指だけヤツラを指す。
「お前の血を飲んだせいか、やたらとはっきりくっきりコイツらが見えるぞ」
すると手の中のコイツは、
「それなら任せろ。お前に力を貸してやるよ」
「力、だ?」
コイツはニヤッと笑うと、何も言わずいきなり俺の右目に飛び掛かってきやがった。
突然のことで驚いた俺をよそに、完全に右目に溶け込みやがった。
一瞬右目に痛みが走ったが、視力に問題はなかった。
『どうだ、気分は?』
アイツが直接頭の中から話しかけやがった。初めての体験だ。
頭の中から話しかけられるのが、こんなにも違和感のあるものだとは。
「知るかよ、そんなこと! いきなり人の目玉の中に入りやがって。なにがしたいんだよお前は」
『そんな細かいことは、この際気にするな』
「気にするっつうの! しかも細かくない!!」
『お前みたいな奴、ケンカしてそうで今までケンカなんてほとんどやったことないだろ』
うっ……
『そんな奴が敵うはずないのは明確だ。だから俺の持つ力を貸してやるのさ』
「だからどういう意味なんだ」
『お前、右手に持った鎌を見てみろ。でっかい鎌があるだろ。その鎌は俺が昔、仕事で使ってた代物』
「えっ? うわ、本当だ。いつの間にこんな物騒なもんが。しかも普通の鎌の十倍もあるじゃねえか!」
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