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俺はマジでビックリした。
いつの間にか握られていた巨大な鎌。一般的に俺が知ってる草刈り鎌とは明らかに違う。
柄の部分だけでも身長百七十六ある俺よりもあり、刃は普通の片刃じゃなく、純粋に斬ることだけを目的とした、いわば殺人用の武器ならぬ凶器だ。
いつだったか興味本位で読んで知った江戸時代に存在した殺人刀に近い。
だがその見た目とは違って思いのほか軽く、初めて持ったはずにも関わらず物凄いフィット感だ。柄の下には矢の(やじり)のようなものが、刃には鎖がぐるぐる巻きになっている。
『とりあえず、その鎖外せ』
言われた通り鎖を外すと、鎌が脈打った。
「うわっ」
驚いて鎌から手を離した。
ガラガラと音が洞窟内に響いた。
『おい、落とすんじゃねえ』
「わ、悪い」
俺は落とした鎌を拾おうとするが、手が震えていた。
手に持つと再び鎌の脈が伝わった。勘違いや気のせいなんかじゃない。まるで生き物のように今にも確かに脈動が伝わる。
「お、おい、この鎌生きてるぞ!」
『当たり前だろ? 俺が使ってた鎌だぞ。そこら辺のガラクタ鎌と一瞬にするな』
鎌が脈打つたびに、前方の化け物どもが怯える。それだけこの鎌が驚異なのか、それともそれを持つ俺に驚いているのか。
まあ原因は明らかに前者だろうが、これでどうやって戦えって言うんだよ。
自慢じゃないが、確かに俺は生まれてこのかたロクにケンカなんかしたことがねえ。
あったとしても、せいぜい小学校でクラスの悪ガキ連中を殴ったことくらいだ。
口ばっかりの連中で、一人一発ずつ殴ったら蜘蛛の子を散らすようにないて逃げやがった。ケンカらしいケンカはそれっきりだ。
第一、俺は鎌自体持ったのが初めてだ。それにこんな馬鹿デカイ鎌なんざ使ったことがあるほうがどうかしてるってもんだ。
俺がしばらく鎌とにらめっこをしていると、
『おい!』
頭の中でアイツが怒鳴りやがった。
「えっ? って、おわっ!」
顔を上げると前からサソリの化け物が襲ってきやがった。
俺はとっさに後ろに飛んで尻尾のようなものをかわしたが、着ていた服の裾が切れていた。切れていたというより、溶けていた。
反応するのがあと二秒遅かったら俺が溶けていた。間違いなく。
そう考えるとゾッとする。
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