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「洞窟の中でお前の中に入っただろ。それと同じだ。滝の近くまでお前を運んだら、もう一度お前の中に入ってお前の体で出たんだよ。その気になればお前の意識の有る無しに関係なき動かせる。それにあの結界は結果いい加減で、俺そのものじゃなければ、少し能力や才能があれば簡単に出入りできるんだよ。だからお前は中に入れたんだよ」
「なるほど。じゃあ入れたのは偶然やたまたまじゃなかったのか」
「そういうこった。それより今は、自分の無事を喜んで笑えよ。俺みたいよ。ははははは」
「へへ、そうだな」
確かに今は、この生きているという素晴らしい事実を実感しなきゃな。
面白いこと以外で笑うことも、こんな気分で空を見上げたのも随分久しぶりぶりだ。
今日は思い切り笑っておくか。
そう思った時だ。
「おいっ!」
どこかから随分デカイ声が聞こえた。
声のした方を向くと、そこには昼寝か三度寝を終えた先輩が血相を変えて飛び出してきた。
なぜかお祓いの正装で。流石に正装ではピアスもちゃんと外している。
他にも先輩の母親や、ここら一帯の寺や神社の関係者まで、そりゃもうわんさかと。
「なんだ、一体」
訳がわからず呆けている俺と、まだ大笑いしているアイツをぐるぐると円周状に取り囲む。
周囲の鋭い視線はアイツだけでなく、俺にまで向けられていた。いや、どちらかと言えば俺のほうが若干視線が多かった。
その中には、先輩も含まれていた。
先輩が隣に立つ母親に横目で視線を送る。
「なんだ」
まだ俺は状況が飲み込めなかった。
ようやく笑い終えたアイツが歩み寄り、俺に手を貸してくれた。
好意として俺はその手をつかみ、取りあえず川から出た。
先輩は隣に立つ母親に横目で視線を送った。母親が何も言わず頷くと、先輩は二歩前に出てきた。
「おい、雷魔」
怒鳴るように俺の名前を呼んだ。その声からは、普段のおちゃらけた雰囲気は微塵も感じられなかった。
「は、はい」
ビックリしながらも俺は返事をした。
「単刀直入に訊くぞ。ソイツを瓶から出したのはお前か、雷魔?」
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