【プロローグ その日が始まる】

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窓拭きの途中、先輩の母親に会ったが、向こうは挨拶をしても返すどころか視線すら合わせなかった。 どういうわけか、俺はこの人に嫌われているようだ。別にそんなの慣れているから構わないが。 「さってと、次は洗濯か」 もう一度先輩の部屋に戻ると、掃除中に起きたのか布団の脇に洗濯物が山のように積み上げられていた。しかも山は五つ。 どうやら先輩はその日その日にちまちま洗わず、ある程度溜めてから一度にどさっと洗うようだが、いくらなんでもこれは溜め過ぎだ。 まあ別にいいが、ここにきて一つ問題が発生した。 「俺、洗濯機の場所知らなかった」 ヤバい、これじゃ洗濯が出来ず、俺も帰れないじゃないか。 俺は慌てて先輩を往復ビンタで叩き起こした。 すると先輩は、 「あ? ああ、台所の裏口から外に出ればあるぞ~(パタン)」 場所だけ教えると、再び先輩は夢の中へ。まあ場所がわかったんだから良しとしよう。言われた通り台所の裏口から外に出てみると、確かに洗い場はあった。 だがそこに洗濯機などはなく、思わず手を合わせて拝みたくなるほど美しい滝が流れていた。 まさか、ここで洗えっていうのか? 周りを見ると、滝の近くに足場と石鹸(せっけん)と洗濯板があった。 おいおい嘘だろ。この時代に洗濯板かよ。つうかそれ以前にこんなとこでそんなことしたら、罰が当たりそうな気がするぞ。 「仕方ない。どっか近くのコインランドリーにでも行くか」 ああ面倒くさい。こりゃガソリン代くらい貰わないとな。 ため息をこぼしてその場から立ち去ろうとした時だ。足が止まった。 滝の後ろから、わずかだがコオーという空洞音が耳に入った。 不思議に思って音のするほうへ近づいてみた。行く手を遮る木々が邪魔だったが、獣道ほどではなかった。 そして丁度滝の裏側に来ると、やっぱり空洞になっていた。それも正しくはかなり深い洞窟だ。 (なんだ、ここは?)
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