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気味が悪いと感じる恐怖心より、中に入って何があるか調べてみたいという好奇心が強く、俺は中に入ることにした。邪魔になりそうな洗濯物は入り口に置いてきた。
洞窟の中は朝だというのに夜のように真っ暗で、まだ六月になったばかりだというのに冬のように肌寒かった。上着が欲しいぞ。
足場は凸凹の上、水滴で滑りやすくなっていた。
だがこの洞窟、自然に出来たものじゃない。
あちこちにヒビが入り今にも崩壊しそうだが、相当昔に人の手で造られたものなのはわかった。
もしかしたら先輩の先祖の誰かが作ったものかもしれないが、今俺はそんなことよりも別のことが気にかかってそれどころじゃない。
(しかし、妙な洞窟だな)
奥に進むにつれてそれは確かなものへと形を変えてきた。
悪寒だ。進むと寒気が強くなっていく。決して洞窟内が冷えているからというだけじゃない。
だが同時にもう一つ。妙に落ち着く感じがした。
そして俺は、手探りでついに洞窟の一番奥に辿り着いた。
「な……なんだ、あれ」
そこで目にしたのは、今まで目にしてきたものを否定するかのような生き物がいた。生き物は限りなく黒に近い灰色の体に、頭には闘仙骨部のあたりには矢印に似た細長い尻尾、口や指先から伸びる牙も爪も鋭く、耳もピンと伸び、背中には闇とまったく同色の翼が生えていた。鳥のような羽ではなく、どちらかといえばコウモリに近い骨と皮だけの翼だ。
体の大きさは子猫ほどと小さく、透明の瓶に入っていた。
入っていたといっても、蓋はない。上からチョロチョロと水が滴っているだけで、抜けようと思えば簡単に抜け出せそうだ。
生き物は死んでいるのか眠っているのか、ぴくりとも動かなかった。
「なんだこれ?」
恐る恐る近づいてみた。一歩、二歩、三歩目を踏み出したときだ。
生き物の耳が、動いた。
「――っ」
俺は足を止めた。
ゆっくりと生き物の目が開眼されていく。瞳は白と赤の二色で、少し不気味だ。
「……」
「うっ……」
生き物と目があった。
まだ意識がハッキリしていないのか、しばらくボーっしていたが、次第に目がぱっちり開き、ニヤリと口端が吊り上がる。
「よう。お前、人間か?」
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