【プロローグ その日が始まる】

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生き物が話しかけた。 ビックリした。 生きていることもそうだが、喋れるとは思わなかった。しかもちゃんとした日本語だ。 しかし開口一番の言葉が、お前人間か? かよ。 とりあえず俺は答えた。 「まあ、一応」 「なんかはっきりしない返答だが、そうか……ふふ、ははは、あはははははは」 なんだコイツ。俺が人間と知ったとたん、いきなり笑いだしやがった。それも腹を抱えて大声で。 その影響で、洞窟内が激しく揺れた。破片が頭に当たった。 「な、なんだお前は」 「おっと、悪い悪い。人間を見たのは八百年ぶりだったからな、思わず興奮しちまった」 「八百年っ!」 「そうだ。俺はこの瓶の中で、この洞窟に閉じ込められ、もう退屈で退屈で死にそうだったんだ。というか、さっきまで死んだように寝てたんだがな」 「だったらそこから勝手に出ればいいだろ。蓋も扉もないんだ、いつでも出られるだろ」 「それが出来ないんだな、これが」 生き物は瓶の中で器用にあぐらをかき、上を指さした。 「上からチョロチョロと水が垂れてるだろ。この水はすっげえ清らかな聖水で、この瓶は特殊ガラスで出来て、ちょっとやそっとじゃ壊れるどころかヒビも入らないんだよ。聖水で力が抑えられて、割ることも這い出ることも出来ねえよ」 「ふ~ん」 「おまけに外の滝は結界になっていて、例えここから出られてもどの道外には出られない」 「なるほどな」 俺もいつの間にかあぐらをかいて座っていた。もう最初の驚きも、どこかに消えていた。 「誰かが一緒なら簡単に出られるんだがな~」 生き物はそこまで言うと、意味ありげに俺を見て笑った。 「な、なんだよ」 「お前、俺をここから出してくれないか?」 俺は肩を落とした。それも、傍から見ても疲れました的にガックリと。 案の定この奇妙な生き物は、俺が予想した通りのことを口にした。 俺はそのまま百八十度回れ右して帰ろうと思ったくらいだ。
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