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「いや、違うな。俺をここから出してみないか?」
あれ? 今度は予想外の言葉が飛び出した。最初の出してくれという命令言葉ではなく、出してみないかという疑問言葉だった。
「なんで俺がそんなことを。メンドイ!」
今度こそ回れ右してその場から立ち去ろうとすると、なにかが俺の襟首を引っ張った。
「一つ言っとくが、お前ここから生きて出られないぞ」
「どういうことだ」
「周りを……と、そこに丸い光る板があるだろ。それ覗いてみろよ」
「?」
いちいち言ってることがわからなかったが、言われた通り瓶の左右に立てられた鏡を覗き込んだ。
するとどうだ。
鏡の中には鏡に映っている自分や後ろの背景以外に、瓶の中の奇妙な生き物に似た奇妙な生き物がウヨウヨしているのが見えた。
「え?」
俺は鏡から視線を外して周囲をぐるりと見渡したが、どこにもそんな生き物は見当たらなかった。
いや、正確に言えば見えていないだけで、どこにいるかは、その部分だけ空間が歪んでいたから位置はわかった。「どうやら見えたようだな。ということは、お前なにかしらの才能があるみたいだな」
「才能?」
「その鏡は特別製で、わずかだが妖岩が使われて、霊力のある人間には奴らが見えるんだよ」
「…………」
俺は沈黙した。
「どうやら、心当たりがあるみたいだな」
「まあな」
確かに俺はこいつが霊力と呼ぶ特別な力を持っている。いや、持っていたと言ったほうが正確かもしれない。
それは、まだ俺が空の絵を描いていた頃のことだ。
実はその頃の俺は、絵を描く以外にもう一つ夢中になっていたことがあった。
それは、普通の人には見えない幽霊や妖怪を見て楽しむことだ。
もっとも楽しむと言っても目に見えるだけで、触れることも声を聞くことも出来なかった。
絵同様に現実の逃げから生まれたのか、覚醒の時期がたまたま重なったのかはわからない。自分で言うのもなんだが、なんとも中途半端な能力だと思うぞ。
しかもその半端な能力も、高校になる頃にはほとんど見えなくなっていた。
そのはずだったが、
「あいつらは不思議な力を持った奴らが大好きでな」
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