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刻は文久二年
………………
「早くせねば
夜になってしまうなぁ…」
暮れが押し迫った師走(12月)
一人の浪人が
夕焼けの路を歩いている
紺色の羽織りに同色の袴
人当たりの良い優しい顔をした
二十二歳
『永倉 新八』が浪人の名だ
「しかし…相変わらず
でかい道場だなぁ…
少し小さくてもよかろうに!」
永倉は羨ましいそうに
目的地の道場
『試衛館』を囲む高い塀を見て
文句を言い始めたが
やがて
門構えまで辿り着いたので
足を止めて
「おおい!!誰か居るか!?」
大声で門の敷居の端で
屋敷に向かって叫んだが…
誰も出て来ない
「おおい!!
誰もおらんのか、この道場は!」
再度叫ぶと
「煩いな!
一回言えば解るから
何度も叫ぶな、新八!!」
「うわぁ!!」
背後から急に窘められて
驚きながら振り向くと、
永倉より四歳年上の
背の高い男が刀を肩に担ぎ
睨んでいた
「なんだ
驚かさないで下さいよ…
まったく…」
「お前が
勝手に驚いたんじゃないか
騒がしい奴だな!
んで何の用立てだ?」
門構えの下の敷居を挟み、
刀を担ぎ睨む背の高い男と
優しい顔の永倉は
対峙している
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