第1章 -偶然の掌-

2/7

274人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
「南街道に新しいケーキ屋さんができたの知ってる?」   「昨日オープンしたやつでしょ? もう昨日行ってきました~」      授業中に襲ってきた睡魔に打ち勝った勇者は、戦闘終了後に堂々と机に突っ伏すのだ。HRの間に寝ていても注意はされないことをあらかじめ知っているからこその行動。    そしてその睡眠は長きにわたり、ついには放課後にまで至ったようだ。     「うそ! なんで誘ってくれなかったのっ?」   「だってアオイ、ダイエット中じゃん」   「昨日で終わったの! つかね、明日休みでしょ? 一緒に行こう? ね? ね?」      そして今、女子達の他愛もないしかし迷惑この上ない談笑により、僕は目を覚まそうとしている。    つかもう、覚めてるんだけどな。    しかし寝起きの悪さだけは負けないというマイナスファクターを持っている僕は、目が覚めてもなお睡眠を欲している。    頑張れば起きられる。    頑張らなきゃまた寝る。    頑張れ、僕。   「ねー創志(そうじ)、あんまモゾモゾしてると気持ち悪ぃんだけど」    すぐ近くから僕を名指しで、名誉を傷付けるようなことを言うのが聞こえる。寝心地がいい格好を探していた行動が、彼には気持ち悪く感じたんだろう。    ともあれ、聞き覚えがありすぎるその声に、僕の意識は一気に覚醒した。   「……眠いんだよ。昨日は遅くまで起きてたから……」   「あらあら、またゲームですか? ったくこの子は何か他にやることはないのかねぇ」
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

274人が本棚に入れています
本棚に追加