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純哉がふざけてそんなことを言ってくる。しかし僕はふざけている場合などではない。状況を確認するために慌てて顔を上げる。と、高梨といきなり目が合って、僕は純哉に目線を送るふりをしてその目をそらす。
でも僕には、なぜ高梨がそんな事を言うのか理解できた。確かに思い出すとそういうことになるのだ。純哉との会話に集中していたあの時間。高梨達の会話はこう。
『明日はデートなの☆ 一人で行ってきなさい』
『一人でなんて行けないよぉ! サキは?』
『ダイエット中なの☆』
『え~っ? じゃあ私は誰と行けばいいの?』
『はいはぁ~い! 男子諸君、こんな可哀そうな葵さんに付き合ってあげる勇者は挙手して~』
で、丁度よく手を振っていた僕。しかも『何だね、僕じゃあダメなのかい?』とか言っていたのは気のせいではないはずだ。
ただの偶然も重なるとこんなに恐ろしいことになるんだね☆
この誤解を解くために、僕は表情一つ変えずに言う。
「ああ違う違うこっちの話。純哉と遊ぶ話だよ。な?」
しかし内心は焦りまくっていた。
でも焦るのはなんとなくカッコ悪い気がして、無駄に平静を装ってみたりした。純哉に話を振ったのも、僕へ集中した目線を分散するため。
ここで純哉が同意してくれれば何事もない日常に戻る。変哲も何もあったものじゃない日常。だけどそれは僕が望む最高の日常なのだ。
僕は純哉にさりげない視線を送る。すると純哉は何かに気づいたようなリアクションを取り、嬉々としてこんな言葉を紡いだ。
「でも高梨も行くなら丁度いいよな」
ん?
んん???
「俺等もそのケーキ屋行こうって話してたんだ。実はこの創志くん、甘いものが大好きなのだよ」
「ちょ、純哉くん何を言っているのかな?」
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