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僕が甘いもの好きなんて初めて聞いたよ。
「ホントに!? 行きたい行きたい! 私も行く!」
高梨が女子の集団から抜け出す。並べられた机達を軽やかに避けながら、実に軽快なステップで僕の目の前まで駆けてくる。そしてその両手を僕の机置き、満面の笑みだ。
「いいよねっ?」
う……。モロに正面から見てしまった。
脳裏に巻き起こりそうになる恥ずかしいセリフを慌ててき消す。高梨に一瞬でも女性的魅力を感じてしまったことにより、僕の耳の温度は急激に上昇する。
こういうことは考えるもんじゃない。意識しないようにしようとする行為自体が意識していることにつながり、つまり顔が見れなくなる。
「別に、構わないけど」
そっけなく言った僕の目線は、高梨の顔がギリギリぼやけて見える辺りを彷徨っている。そんな僕の視界に、純哉の邪気だらけの笑顔が飛び込んでくる。
「ニャー☆ 楽しみだにゃー☆」
椅子を倒しながら無理な体勢でそんなことをしてくるものだから、僕はアンサースマイルのついでに椅子の足を蹴飛ばしてやった。
純哉の笑顔が一瞬にして引き攣り、僕の視界から消える。
オーバーに叫びながら床を転がる親友を無視し、僕は机に掛けたカバンを取り無言で立ち上がった。そのまま純哉に目線を送ることもなくきびすを返すと、駆け足で教室を出る。
無論高梨から逃げるための行動のつもりだったのだが、どうやら僕は現在、冷戦な判断ができなくなっていたようだ。
後ろから迫る足音に背筋が凍る感覚を覚える。視界には沢山の高校生が写っていて、駆け足の音や話し声が聞こえてくるはずなのだが、高梨の足音は正確に認識できる。そのくらい僕はビビっているのだ。
逃げ道である純哉がいなくなった今、僕に追いついて歩くスピードを緩めた彼女は、僕が一人で対処するしかない。
僕が……ひとりで……。
高梨の足音が止まり、
僕の心臓が高鳴った。
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