【第十一章】 雛(ひいな)に御霊(みたま)の宿りし語

92/128
4599人が本棚に入れています
本棚に追加
/1453ページ
「あんさんは相変わらず短気どすなあ」 藤はころころ笑うと、容赦なく陽炎の鳩尾に拳を打ち込んだ。陽炎は呼吸を詰まらせた。 華奢な体躯はそのまま猛烈な勢いで空を横切り、小枝を折ながら竹群に消えていく。 「陰陽頭殿、美日殿をお願いします!」 真明は水月と睨みあいながら、吉昌の元へ美日を押しやった。すぐに水月が追撃するが、真明がそれを許さない。 無駄のない動きで綾朱鷺を振るい、水月の行く手を阻んだ。朱色と青色の線が薄闇の中で耳障りな金属音を鳴らしながら交錯する。 表情のない式神の少女も苦戦を強いられているようであった。 「ふうん、やはり力の差は歴然だな」 吉平はいたって涼しげな表情で漏らした。細く白い指先で顎をなぞりながら、薄い笑みさえ浮かべている。 「どうだ、吉昌。うちの式神達をお前の式神の元で鍛えてはもらえないだろうか」 「ふざけるな」 吉平の場違いな戯言に、吉昌が唸る。美日も敵意を剥き出しにした瞳で、吉昌の陰から吉平を見上げていた。吉平が失笑する。あるいは嘲笑のようにも見えた。 「……吉平、何を企んでいる」 「別に何も。強いて言うなら、力の追及ってやつかな」 吉平は刃を交わす少年と式神を、興味深そうにしばし観察した。 「真明は強くなったな」 「…………」
/1453ページ

最初のコメントを投稿しよう!