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【参】
「貴公の昨晩の活躍聞きましたぞ!」
翌朝、内裏(だいり)に出向くなり公達(きんだち)の一人が吉昌に声をかけてきた。
周囲の公卿(くぎょう)等も自らの公務よりも二人の話に興味があるらしく、吉昌の手元の包みをちらちらと盗み見ている。
「私は役目を果たしたまでのこと」
謙遜ではなく本当にそう思っているようで、吉昌は無表情のまま応えた。
綺麗な顔立ちにこの淡泊さが余計吉昌の雰囲気を神懸かったものに見せ、専ら噂話好きの公卿達の注目を集めていた。
「しかし、陰陽頭殿がご自分で出向かれるとあっては、藤原中将の大君(おおきみ)は噂通りの美少女なのでしょうな」
話かけてきた公達はうっとりとした表情でため息をもらした。
嫌味などではなく、色恋沙汰も都人の高い関心事のひとつなのだ。
「さて、暗い闇夜でのことでしたから……」
確かに、昨晩出会った明姫は澄みきった大きな黒い瞳が印象的な愛らしい姫君だった。
しかしながら、吉昌は微かな違和感を覚えていた。
(何よりもあの妖刀……)
貴族の女子は生まれながらにして親より護刀(まもりがたな)を貰い受ける。
それは、武士(もののふ)の刀と同じで、生涯肌身離さない大切なものだ。
(その懐刀に何故呪が……?)
※内裏…天皇の居る場所・政治の中心
※公達…都で公職に就く貴族たち
※大君…長女
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