【第一章】 安倍吉昌、明姫と出逢ふ語〔こと〕

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「しかし、貴公に比べて兄君のなんと情けないことか。なんでも、最近は誰ぞの北の方の元へと通っているというではありませぬか!」 公達が一際声を高くし、周囲からくすくすと笑い声が起こる。 吉昌はふと回想から我にかえった。 「同じ大陰陽師の血を継ぎながら、こうも違いがありますとは!」 公達が笑いを誘うように辺りを見回した。 公卿達が無遠慮に笑いさざめく中、ごとりと音をたて吉昌が抱えていた包みが床に落ちた。 公達らがぎょっと包みに視線を注ぐ中、床に転がる包みがひとりでにことことと震え出す。 「!?」 周囲の者が身をすくませる中、吉昌は事もなげに包みをそっと拾いあげた。 「よ、吉昌殿……、そ、それは……?」 公達が青白くなった唇を震わせながら尋ねる。 吉昌は腕に抱いた包みを開き、中のものを公卿達に見せつける。 布の中には獣のものと思われる薄汚れた髑髏が横たわっていた。 「ひっ!?」 「これなる狐の御霊が昨晩中将殿の姫君にとり憑いておりました。まだ暴れ足りぬと見えますが」 蒼白の面持ちで言葉をなくした周囲をよそに、吉昌は「これにて」と颯爽と去っていった。 ※北の方…奥方
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