4609人が本棚に入れています
本棚に追加
「しかし、貴公に比べて兄君のなんと情けないことか。なんでも、最近は誰ぞの北の方の元へと通っているというではありませぬか!」
公達が一際声を高くし、周囲からくすくすと笑い声が起こる。
吉昌はふと回想から我にかえった。
「同じ大陰陽師の血を継ぎながら、こうも違いがありますとは!」
公達が笑いを誘うように辺りを見回した。
公卿達が無遠慮に笑いさざめく中、ごとりと音をたて吉昌が抱えていた包みが床に落ちた。
公達らがぎょっと包みに視線を注ぐ中、床に転がる包みがひとりでにことことと震え出す。
「!?」
周囲の者が身をすくませる中、吉昌は事もなげに包みをそっと拾いあげた。
「よ、吉昌殿……、そ、それは……?」
公達が青白くなった唇を震わせながら尋ねる。
吉昌は腕に抱いた包みを開き、中のものを公卿達に見せつける。
布の中には獣のものと思われる薄汚れた髑髏が横たわっていた。
「ひっ!?」
「これなる狐の御霊が昨晩中将殿の姫君にとり憑いておりました。まだ暴れ足りぬと見えますが」
蒼白の面持ちで言葉をなくした周囲をよそに、吉昌は「これにて」と颯爽と去っていった。
※北の方…奥方
最初のコメントを投稿しよう!