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黒い闇に浮かぶ数多の星、そして、消え入りそうな細い月。
一際深い森に囲まれた聖なる山と呼ばれるこの山の頂に、君臨するかのようにそびえ立つ大木が生えていた。その木の一番低く太い枝の上では白く美しい頭髪を蔦で巻いた女性が座っている枝から足を投げ出し、片手に杯を持って木々が茂らす葉の間から煌めく星を眺めながら夜風を浴びている。
「なんじゃ…また来たのか?酒呑童子…いや、露鬼(ロウキ)」
「軽々しくその名を使うでないと言ったろうが…銀月(ギンゲツ)」
大木の幹に手を突き、上を見上げて女性に声をかけたのは見事な体躯で肌が赤い大きな鬼だった。目玉は通常の位置の他に額に三つもあるが、前髪を長く伸ばしているせいではっきりとは見えない。
「お前のような女が一人で手酌か?降りてこい、俺ではそこまで登れん…ここに来て酌をしろ」
巨大な体躯が座った衝撃に大地は揺れ、まだ青々と茂っていた葉を数枚落としていく。
「そこで一人で飲んでいろ、この大酒飲みが…私はここでの手酌が気に入りだ」
「お前が来ないならば…適当に女を数人攫って来るか?ん?」
「…ちっ…手を出せ、露鬼」
「その名は使うな銀月…ほれ」
「お前も気安い」
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