番外編~鬼と狐と月見酒~

3/9
前へ
/10ページ
次へ
 無造作に差し出された露鬼の手のひらの上に、音もなく降りてきた女性は不満そうに顔を歪めているが、この世の者とは思えぬ美しさのせいで不機嫌には見えない。  身長が二尺程もある巨大な露鬼、そんな彼の大きな手のひらから、まるで綿毛のように地面に降りた女性の頭には大きな三角耳が生え、小刻みに動いていた。 「さっきから気になっておったが…あの影にいる子鬼は誰じゃ?」 「あぁ、忘れとったわ…おい!こっちに来い!心配せんでも、こいつは九尾狐だ…喰われたりせん!」  胡座をかいた露鬼の横に立った銀月だが、彼の頭よりも視線が低い位置にある彼女は巨体の向こう側が見えにくい為に彼の肩に両手をついて飛び乗る。その様はまるで小人が乗っているように見えてしまう。 「なんじゃ…鬼らしからぬ可愛い顔をしておるな」 「そう言ってやるな、やつは気にしている事だからな」  ズルズルと滑り落ちるように露鬼の肩から降りた銀月は笑みを浮かべながら小さな鬼の側まで歩いていく。闇に近い翡翠色の髪、真っ赤な血潮の瞳、幼い顔つきは今まで銀月が出会った鬼の中でも特に整ったもの。 「そう怯えるな…妖狐に会うのは初めてか?」 「耳…触っても良い?」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加