番外編~鬼と狐と月見酒~

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 とても小さな声で聞いてきた少年は恐る恐る銀月に向かって手を伸ばしている。銀月はそんな少年の手が届くように抱き上げると、ニヤニヤと笑っている露鬼の近くまで歩いて戻って行った。  抱き上げられた少年は落ち着かない様子だが、目の前にある大きな獣耳に心を奪われたのか瞳を輝かせて柔らかな毛に覆われたそれを撫でては笑顔になっていく。  巨大な杯を一気に傾けた露鬼は銀月たちの様子を楽しそうに見ながら、何か閃いた様子で口元には不思議な笑みを浮かべていた。 「なぁ銀月、そいつに名を与えてくれ」 「何故?物の怪は己の真の名を自分で決め、誰にもあかさぬ…そうであろう?」 「普通はな、だがこいつは少々特殊でな…お前の…名の通った妖狐のお墨付きをやりたくてな」  巨大な杯に再びなみなみと酒を注ぎ、銀月が子鬼を自分の太ももの上に座らせた事を見届けてからもう一度口を開いて言葉を繋げていく。 「そいつはな…先も言ったように“らしくない”と多くの輩にからかわれてな…今ではすっかりその様だ」 「その様とは?」 「影に隠れて出てこない、滅多に声も上げない…このままでは鬼としては生きていけなくなるだろう?それだけは避けねば」
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