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ザワザワと木々を揺らす風が吹き、銀月の髪を纏める為に絡み付いていた蔦が外れて上空に舞い上がっていった。サラサラと流れるように靡く絹糸のような髪を空いていた左手で押さえながら、視線はやや下方に落としたままで睫も頼り無さ気に震えている。
「そうであったかのう…幾年月が過ぎたのか」
“煉豪(レンゴウ)露鬼”
これが銀月のつけた大鬼の真の名であり、知る者は彼本人と銀月の二人だけ。
露鬼はこの名を貰ってから、人々の間でも噂が囁かれるほどに有名な鬼となった。この名がついたから有名になったのか、それとも偶然彼が有名になる前に名がついたのか、その真実は誰も知ることが出来ないが、露鬼は銀月の与えた名という縁の持つ力を信じていた。だからこそ、特に気にかけているこの幼い鬼にも自分と同じ様な恩恵を与えたいと思ったのだろう。
「お前ならば信用出来る…馴染みの俺の頼み、そう思って名を与えてやってくれ」
「そうは言っても…真の名は重いからのう…何じゃ…欲しいのか?」
抱きついていた少年は瞳を輝かせながら銀月を見上げ、大きく頷いてにっと少年期特有の無邪気な笑顔を見せる。
「仕方がない…そうじゃな…良し、決まった」
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