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親友の原田由理。美空は由理と分かれ、その日は既に一人の帰路についていた。
大抵の日は、由理と途中まで帰路を共にしているのだが、例外の日もある。今日がその例外の日なのだ。
由理が他校の彼を出迎えに行く日。
彼に追わしておくだけではダメならしい。たまには彼を追う素振りをきちんと見せ、意思表示しなければ、男も、熱が冷めてしまうとか。由理の恋愛定義だ。
由理は今頃、デートを楽しんでいるのだろう。毎日毎日デートして飽きないのだろうか。ただ、二人でいるという時間を過ごすだけで心が満たされる。恋とは、そういうことなんだろうか。
自分には、分からない価値観の中にいる由理を思いながら、美空は小さく息をついた。
「恋人…かぁ……」
二人のことを考えると他人事ながら顔がゆるんだ。
だが、それは一瞬とも言える時間だ。すぐに表情は強張った。
“今日は、いつもよりも一人の距離が長い”
一人になると決まって、美空の足取りは急に重くなり、気分はグンと沈む。同時に警戒心もたっぷりになる。
毎日訪れる苦痛の時間──。
その苦痛はある能力が原因である。
彼女には見えるのだ。
この世の者ではない彼らの姿が…。
彼らの前を足早に通り過ぎてゆくが、心は穏やかではない。
一人になると、帰り道は華やかさを失う。
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