いち

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    「ほれ、飛んでった」 「あ…」 「佳月っ」 かごの中の虫が 入道雲の立ち込める 青い空に飛んでいく 虫の王様を逃がした手は 貴方の大きな手 鷹は怒って貴方を見上げる 「だって逃がすんだろ?」 「今逃がすことないだろっ」 悪びれる風もない貴方は 僕を見て目を細める 切れ長の目が細まると すごく優しく見えて その一瞬で僕は 貴方の虜 鷹の世話係は昔から入れ替わりが激しいから 貴方も直ぐ居なくなっちゃうのかなって あの時の俺は寂しくなって 目を細めて笑う貴方の顔を 忘れないように 瞼の裏に焼き付けようと必死だった
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