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「醜悪だね」
耳を塞いでも言葉は聞こえた。誰でもない、自分の言葉だ。骨を伝わって、自分の中枢まで伝わる。直面したくない現実に目を背ける自分自身に、虫ずが走る。
天井は真ん中だけが白く、電球の光が行き届かない場所は灰色だった。
「自分が好き。自分にさえ、都合がよければ、それでいいんでしょ?」
否定する気も起きない質問。その通りにその通り過ぎる問いかけは、愚問だ。そんなことは承知しているし、それを今更変えるつもりもない。
それで上手く行っていた。自分の精神が安定していれば、他人が多少どうかなったって。それに自分の精神の安定のためには、自分が嫌われない必要があるために、そうひどいことをするはずもなかった。
でも、歪みって表れるもんだね。自嘲は、空気を震わせない。弱みを真っ白い光の下には晒せなかった。晒したくなかった。
澱んだ空気の中で、澱んだ精神はとぐろを巻く。ベッドに横たわった体が、そのまま沈み込んで、最後には消えてしまいそう。まどろむように消えていけたら、それも本望かも。
「醜悪だね」
視界がぼやける。
「でも、好きだったの。どうすればいいかなんて、分からないよ」
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