~フタ~

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これはOLとして働きながら、ひとり暮らしをしていた数年前の夏の夜の話です。 私が当時住んでいた1DKは、トイレと浴槽が一緒になったユニットバスでした。 ある夜、沸いた頃を見計らって、お風呂に入ろうと浴槽のフタを開くと、人の頭のような影が見えました。 頭部の上半分が浴槽の真ん中にポッコリと浮き、鼻の付け根から下は沈んでいました。 それは女の人でした。 見開いた両目は正面の浴槽の壁を見つめ、長い髪が海藻のように揺れて広がり、浮力でふわりと持ちあげられた白く細い両腕が、黒髪の間に見え隠れしてました。 どんな姿勢をとっても、狭い浴槽にこんなふうに入れるはずがありません。 人間でないことは、明らかでした。
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